私は去年、ニューヨークのベジタリアン&自然食料理学校のシェフ・トレーニングプログラムを卒業し、夏にマンハッタンのローフード・レストランでインターンをした。
ベジタリアンでもなければ、ましてやローフード主義者でもないのになぜローフード・レストランを研修先に選んだかというと、ローフード料理というものが、一般の料理学校や、料理の本で勉強できるようなやり方ととんでもなく違うので興味があったのと、そのレストランが使う素材が全てオーガニックだったので、連日まかないを食べるのに抵抗がなかったのと、ちょうど夏だったので、火を使わないキッチンが涼しそうだったから(笑)
ニューヨークのレストラン業界の常だが、厨房で下働きをしているのは、ほとんどヒスパニック。そこのレストランも、メキシコ、エクアドル、ペルーといろんな国から人が集まっていたが、全員中南米系だった。英語がほとんどできない人もいたので、指示は身振り手振りだったりして、口で説明してくれれば三言ですむのに、いちいち実演して見せてくれるので時間がかかった。
ある時、「ジャムを取ってきて」と言われたので、地下の冷蔵庫というか、冷蔵庫温度の食材倉庫にジャムを探しに行った。もう何日目かだったので、だいたいどこに何が置いてあるかは知っていたが、ジャムなんて見た覚えがないなぁと思いつつ、瓶ものが置いてあるあたりを探したが見つからなかった。
「あのう、なかったんですけど・・・」と厨房に戻って報告すると、「絶対ある!」と言う。私も散々探したので、「いや、ない!(と思う)」と言うと、その人はついてこいと言って地下に降りていった。
「ほら、あるやんか!」と言ってむんずとつかみ、見せられたのが写真の芋。膝がかっくんとなった。「えーっと、、、それはジャムじゃないです。英語だとヤムです・・・」。笑っちゃいけない、だが、可笑しすぎる。目尻に涙がうっすらとたまる私。
ヤムというのは、ご覧のような中南米の根菜なのだが、yamと書く。ヒスパニックの人々は、yをjと発音するのですね。師匠はちょっとうつむいて小声で練習していたが、それでもまだそれは私の耳にはジャムとしか聞こえなかった。
というわけで、私、そこではジョシコと呼ばれていた。I'm ヨシコって自己紹介した直後に、Hi, ジョシコ. Nice to meet you.と言われ、ずっとジョシコ。みんながそう呼ぶので、ニックネームみたいなもんだと思って訂正もしなかった。私のアメリカン・ネームならぬ、スパニッシュ・ネームだ。
日本のラジオ講座や英語学校や語学教材では、こういういわゆる現地にとってのガイジンがしゃべる英語は聞く機会がないので、かなり英語ができる人でもニューヨークの英語は戸惑う。ニューヨークに住んでいるのはきれいな標準語アメリカンをしゃべる人ばかりじゃないというか、日常的には、いろんな国の人が第二外国語としてしゃべる英語を聞く機会の方が圧倒的に多いから。
ニューヨークで誰がしゃべる英語もわかるようになるには年季が必要。独特の間違いも含めた英語の癖を知らないと、非常に聞き取りにくい。正しい英語だけを勉強したい人にとって、ニューヨークの英語は邪道だが、私は、私も含めて世界中の人が訛りつつコミュニケーションしているニューヨークが、世界の首都といっちゃうと奢りがあるけど、人種や国籍を越えてみんなが仲良くなれる可能性の証明のように思えて好きだ。